~ 第6回:倒産寸前からの再起 ― 色即是空と因縁仮和合がもたらす新たな道 ~
会社を去った私は、プログラムを独学で学ぶことにしました。埼玉県戸田市の紙工場の中にある、家賃の安い住居に引っ越しました。わずかばかりの貯蓄を頼りに、プログラミングの勉強に専念することに決めたのです。生活は質素そのもので、午前11時に起床し、翌朝6時まで勉強を続ける日々。食事は、加ト吉の冷凍うどんに白菜の葉一枚と鶏肉一切れを加えたものを1日2回食べるだけでした。
その生活を一年半続け、ついに新商品を完成させました。この製品は、EDI機能に加えて、個建て運賃やタリフ運賃を瞬時に計算し、最安値の運送会社を検索できる画期的な機能を備えていました。しかし、気がつけば家賃を半年も滞納するほど追い込まれていました。
私はこの製品を手に、物流団地を飛び込み営業で回る日々を過ごしました。製品自体は顧客に驚きをもたらしましたが、問い合わせの電話が留守番電話につながってしまうなど、私一人の運営には限界がありました。「いい商品だけど、買えないね」という顧客の声に、私は悔しい思いをしました。倒産寸前の会社の製品では、稟議が通るわけもありません。
そんなとき、ある顧客から「技術者のアウトソーシングをセットにすれば購入する」という提案を受けました。これが私とアウトソーシング事業の出会いでした。事業の軸足をアウトソーシングに移すようになると、社員数も次第に増え、30名ほどに成長しました。
さらなるチャンスが訪れました。新宿の高層ビルへの転居申し込みが審査に通ったのです。しかし、家賃100万円という金額は私にとって非常に厳しいものでした。悩んだ末、私は兄に「場所は半分、家賃負担は3分の1でいいから、一緒に入居しないか」と提案しました。かつて決別した兄に頭を下げるのは、私のプライドが許せませんでした。しかし、「私のプライドなど何の価値もない」と自分に言い聞かせ、頭を下げました。そしてその気持ちを抱えながら、一生懸命に働き続け、1年後には社員も100名近くにまで増えました。
その後、兄の会社は、兄がかつて所属していた某大手運送会社から独立して成功を収めた企業に買収され、さらに数年後には倒産してしまいました。私たちが見ている現実世界は、普遍的に続くものではなく「無常」であるという貴重な体験を感じることができました。どんなときも、一瞬一瞬をベストを尽くして生きることの大切さを、私はこの経験を通じて学んだのです。そしてこの経験は、仏教の教えとも深く響きあいます。
私の経験は、仏教の教えが示す真理を具体的に体現しています。一瞬一瞬の行動が未来を形作り、無常であるからこそ努力が価値を持ちます。執着を手放し、因と縁を整え、空から新たな色を生む。その実践が、困難な状況を乗り越え、人生の新たな章を切り開く力となるのでしょう。(続く)